紙ヒコーキ

年下攻め若干多めのBL小説サイトです。毎週日・火・木曜日更新です。現在は大学生モノを連載中ですが、今後は軍事モノにも手を出す予定・・・。耽美な雰囲気と文章力向上をめざし日々精進です。

セカンドラウンド

 

部屋には少し気だるげな空気が漂っていた。シリルは腰にタオルを巻いただけの状態でベランダに出て涼んでいる。
ダグラスのマンションからは一級河川が見え、その奥にはニューヨークの街並みも見下ろせるからシリルはお気に入りだった。

夜風が汗ばんだ肌を撫でて気持ちがいい。ダグラスもシリルも、情事が終わった後にシャワーを浴びる習慣はない。互いの汗を感じたあとにそれを流すなんて勿体無いと思うのだ。

シリルはぐっと背伸びをして振り返った。
そして部屋に入ろうと窓を開ける。

(…まさか、ダグラス!?)

窓を開けた瞬間聞こえてきた健やかな寝息に、慌ててシリルはベッドに駆け寄った。そしてダグラスが、眠りに落ちているのを確認する。

(くそ、寝るの早すぎ!)

ベッドの横でシリルが膝から崩れ落ちた。

(…まだ2ラウンドあったとかならわかる。でもまだ1回目だ。まだコース料理でいうところの前菜!前菜でお腹膨れてちゃダメだダグラス!)

ベッドに手をついてなんとか立ち上がると眠るダグラスの表情を見つめた。

(…オレも、年取ったらこんな風に一回で疲れるのかな…)

そう思うと妙に優しい気持ちになってダグラスの頬をそっと撫でた。起きる気配はない。それが愛おしくなってきて、ふと裸の鎖骨を見てみたら、シリルの息子が黙っていなかった。

(…ごめんダグラス。やっぱオレには一回なんて…!)

「ダグラス。起きてください」

緊張感のあるシリルの声に、ダグラスがおぼろげながら目を開けた。

「…シリル?どうした?」
眠そうな顔で、シリルに声を掛ける。

(…無理だ)

幸せそうに笑うダグラスの目を見ると、これ以上無理に起こせなくなる。眠いのだろう、いまにもまぶたが閉じ切ってしまいそうだ。

「ごめんなさいダグラス…何もありません」

ここは引くしかない。しかしガウンがはだけて見える胸元や首筋を見ると、下半身に血液が集中していくのがわかる。

(反則だ…蛇の生殺しってこのことか…)

ゆっくりとまぶたがすべて閉じ切ったのを見つめながら、シリルはひとり悶々とした夜を過ごした。

 

 


あれから二日後の夜。
あの日のように一度終えてベッドで二人、まったりと寛いでいた。ダグラスはいそいそとガウンを着てしまったが、シリルはまだ裸のまま、隣に置いてあった本を読んでいる。

だが、目は完全に本なんか追っていなかった。いつ切り出そう、ダグラスに何て言おう。そればかりに気がいってしまって、諸葛孔明孔子もその戦法も全く頭に入ってこなかった。

「あの、ダグラス」
「ん?どうした?」

ダグラスは何をするでもなくぼーっとしていたところを呼ばれて驚いたのを取り繕った。シリルは本を閉じて傍によける。そして起き上がり、ベッドで体育座りをしていたダグラスと目線を合わせた。

「…オレ、本当は一回じゃ足りないんです」

シリルは恥ずかしさを堪えながら真っ直ぐダグラスを見た。ダグラスにはシリルの恥ずかしさを察する洞察力はない。いかにも堂々と言われた気がして、その発言にそぐわない表情に惑わされて理解が遅れる。しばし考えて言葉の意味がわかった瞬間、ダグラスは思わずoh...と声を漏らした。

「…いや、シリル…うん、わかる、わかるぞ、お前はまだ…その、若いし…」
「オレは、時々…我慢出来ないこともあります…。だけど、いつもあなたは…終わったらすぐ寝ちゃうし……かといってそのあとひとりでするのも嫌だし…」

シリルにしては珍しく歯切れが悪い言葉たちは次第に小さくなっていく。だがやはり、恥ずかしさに目を閉じて聞いているダグラスにはシリルの戸惑いや羞恥は伝わらない。どうしてこうも恥ずかしいことを堂々と言えるのかと自分だけ羞恥の渦に放り込まれた気になっている。

 「だから、せめて疲れてない日は、…もう少しだけ付き合ってくれませんか」

ようやく結論まで言い切った。シリルは大きく息を吸う。緊張のあまり浅くなっていた呼吸が酸素を求めている。

「…ダグラス?」

ずっと俯いているダグラスに、シリルは少し不安になって呼びかけた。しかしどんな表情で顔を上げるのか少し怖い。

「…今日は疲れてない」
「え…」
「腰はちょっと痛いけど、…優しくしてくれるなら」
「本当ですか?」
「……うん」
「…じゃ、遠慮なく…!」

ダグラスの羽織っているガウンをおもむろに剥いだ。そしてその勢いでまくらにダグラスを押し倒す。

「優しくって…!」
「いだだだ、ダグラス、ヘルプヘルプ…!!」

恥ずかしさのあまり思い切りシリルにキーロックをかけてしまった。ただでさえ背後で腕を封じるのだから痛いのにダグラスの腕力でやられてはたまらない。

「わかった、や、優しくしますから…!」
「うん」

次こそは絶対に優しくしようと固く誓ったシリルだった。