短編
アダムといるときの月はより一層綺麗に見える。本当に苦しい毎日の闘いの中でも、こんな夜を過ごせるなら長く続いてもいいと思えるのだ。そよ風に草木が揺れ、乾いた音が二人を包んだ。「いい夜ですね」「…そうだな」二人は夜間警備に当たっていた。部隊の仲…
久しぶりの二人での食事を終えると、フレディは立ち上がってコーヒーを入れた。今日は少し疲れているようだから、柔らかめのカフェオレにしよう。マグカップを用意していると不意に後ろから腕を回された。 「フレディ、ありがとう。すごく美味しかったよ」 …
「あのさ、ブレント」 後ろから急に声を掛けられて、自分でも情けないくらい肩が震えた。ゆっくり振り返ると、オレが待ち焦がれていた顔。 「…キャプテン、びっくりしましたよ」「ああすまない」 キャプテンは少し気難しい顔をしていた。まあ、それはそうだ…
ロッカールームからはチームメイトの賑やかな声が聞こえてくる。その中にブレントもいるようだ。同僚といるときのブレントは明るく愉快で、戦場で見る厳しい表情のブレントとは全くイメージが違う。まあそんなギャップに惚れたのだけど。 「訓練だりー。暑い…
同じ飲み会に出たのは久しぶりだった。まだ片思いだった頃に一度、ベネットが来るからというので仕事そっちのけで直行したのもいい思い出だ。課の皆の顔が上気して赤くなり始めている。今日は早めに仕事を終わらせると言っていたのに、アイツはなにをやって…
久々の二人での夕食に心が沸き立つのを感じる。最近は仕事が忙しく、悠々と食事を取ることすらままなかなかった。 包丁の切れ味はいい。丁寧に皮を剥かれた野菜を一口大の大きさに切り分け、鍋に放り込んだ。 不器用な上司は、よく料理なんてできるな、と苦…
部屋には少し気だるげな空気が漂っていた。シリルは腰にタオルを巻いただけの状態でベランダに出て涼んでいる。ダグラスのマンションからは一級河川が見え、その奥にはニューヨークの街並みも見下ろせるからシリルはお気に入りだった。 夜風が汗ばんだ肌を撫…
思い通りに行かない恋愛がこんなに辛いものだとは思わなかった。自分にとって恋愛は人生に不可欠な要素ではなかったし、ましてそれ中心に生きてきたわけではない。喩えるならば、テレビゲームのような時間潰し、娯楽だった。だからうまくいかないならやめれ…
久しぶりの休日なのに、コリンは早々にどこかへ出掛けてしまった。今日は晴れているし、気温もそこまで高くない。出掛けるにはちょうどいいだろう。フレッドも外へ出ることにした。歯を磨いて顔を洗う。コリンと兼用で使う洗顔料はミントの香りがして気持ち…