同い年
”ピアーズへ この手紙が届く頃には、ヨーロッパから帰ってきているでしょうか。 俺がこの先、第二のライフステージを過ごすことになるドイツは、お前のそのプランに含まれていたかな。俺はこれから、親父の学んだ大学に通うことになる。留学という名目だが…
「お前もう寝る?」「うん、眠いし。まだ勉強すんの?」「どうしようかと思って」「いいよ、オレ明るくても寝れるから。あーでも上で寝るからあんま関係ないか」 ピアーズはそういって背伸びをした。2時間に渡るゲームで萎縮した筋肉を伸ばしている。 「…い…
「なあクレイグ!回復持ってる?」「はいよ」 画面の中で、クレイグの使用キャラがピアーズの使用キャラに回復アイテムを使う。 「助かった。サンキュ。敵強いな」「向こうの衛生兵がまた厄介だな」「うん」「あとお前もう少し物陰に隠れたほうがいい、正面…
―――「お前今週も土日来るだろ?」そう声をかけられたのは、ジムの隣あったランニングマシーン上を走っていた時だった。いつもピアーズは耳にイヤホンをつけて走るから、トントンと肩を叩かれイヤホンを外した途端のことだ。 「ああ、別に他の予定もないし」…
クレイグの細い指がダートをつまむ。そして鋭い眼差しで的を射た。 「ナイス」「サンキュ」「相変わらず何やらせても器用だねえ」 クレイグの友人の一人であるサイモンは、医学部で、いつもクレイグと授業を受けているらしい。クレイグが放ったダートの刺さ…
「クレイグ?どうしたの、気分でも悪い?」 シェリルがクレイグの額にそっと触れた。クレイグがゆっくりと瞼を開く。今日は二人でクレイグの家で勉強することになっていた。朝、確認の電話をしたとき少しバツが悪そうな様子だったのはこのせいだったのだろう…
―――ピアーズが遅くなったあの日。クレイグは講義中にあったピアーズからの不在着信になんとなく嫌な予感がして、ピアーズがいつも通る校門の前で待っていた。勿論家にも行ったが電気はついていなかったし、何より几帳面なピアーズが、クレイグの折り返しに応…
ピアーズは辛うじて歩を進めた。もうすっかり辺りは暗い。思い出したくないのに、教授の顔が、あの狂気に満ちた目が、触れてきた繊細な手指が、思い出されて仕方なかった。涙がぼとぼとと地に落ちる。 「ピアーズ!」 聞き覚えのある愛しい声にピアーズがは…
"もしもしピアーズ?今日、行く?"「行くよ。四時限目終わったら行く」 三時限と四時限の間に、クレイグからかかってきた電話を取った。今夜は一緒にジムに行くのを予定していたから、それの話だろう。 "なら先行ってて。俺四限目終わってから教授の手伝いし…
ーーー 一度だけ過去に、クレイグと肌を重ねたことがあった。あれは高校の時、同じくこの部屋でだった。あの日もこんな風に、積もらない雪が降っていたのを覚えている。 ”なぁピアーズ、いまから俺んち来れないか?” 突然かかってきた電話に、ピアーズはひと…
「それで?俺を引き止めた理由って?」「…前も言っただろ?察してくれよ」「ま、そうだよな」 クレイグは持ってきたコーヒーのマグをコンラッドに手渡して自分ももう一つのマグに口をつけた。 「で?その不毛な恋がなんだって?」「…お前に、あいつに代わっ…
「おー!会いたかったぜー!」「おつかれさん」「Hey!ピアーズ!久しぶりだな!」 待ち合わせの体育館にやってきたのはピアーズとクレイグのクラスメイトであるエルバート、コンラッド、ユージンだ。エルバートはいつも明るくムードメーカー。コンラッドは…
春は夜明け。夏は夜。秋は夕暮れ。冬は早朝。日本の昔の詩人がそんな風に”一日の最もいい時間”を表現していると教えてくれたのはクレイグだった。だが、夕暮れが美しいのは、秋だけではないとピアーズは思う。 ピアーズはマフラーに顔を埋めて空を見上げた。…