作:yukino
”リゲル1、こちらいま着地。ターゲットへ向かいます”ザザ、という無線のノイズが耳に障る。 「キャプテン、ヴィンスさんたち着地したようです、オレたちもそろそろ」 ウィルが輸送機内の後部座席から声をかけてきた。レイフはパイロットであるバイロンに目配…
ウィルがT-SATに来た秋から一年が経った。レイフはデスクに向かいながらウィルの最新の成績情報をパソコンで眺めながら思う。いつからか、ウィルは達観した風な様子になった。それはレイフだけがそう感じているのか、それとも周りもそう思っているのか、定か…
"率直に言うと、気持ちの整理がついていないときのほうが楽だった。落ち着いて自分の余計な気持ちを片付けてみると、こんなにもピアーズが恋しい。" 久しぶりに日記を綴ろうと思ってしまったのは、きっと報われない恋の副作用だ。クレイグはソファに腰掛けて…
”ピアーズへ この手紙が届く頃には、ヨーロッパから帰ってきているでしょうか。 俺がこの先、第二のライフステージを過ごすことになるドイツは、お前のそのプランに含まれていたかな。俺はこれから、親父の学んだ大学に通うことになる。留学という名目だが…
翌朝は思っていたよりすっきりと起きられた。眩しい朝の光がウィルを照らす。冬の朝陽は弱く、温度も低い。ウィルは布団から出るとそのまま歯を磨いて顔を洗った。もう頭の中で今日一日のプランを考えている。 午前中に買い物を済ませてそれから支部でトレー…
大学が長い春休みに入り、ピアーズは一層建築学の勉強に力を入れることにした。春休みのうちに色んな建築を見、歴史を知り、自分らしい意匠設計にたどり着くための材料を得たい。クレイグが自分を認めてくれている、信じてくれている、そう思うと苦手な構造…
「あまり銃声も聞こえませんね」「まだ互いの様子を探っているんじゃないか?」ナイトビジョンを装着しながらウィルが囁く。ナイトビジョンであれば暗闇でも敵がいれば白く浮き上がって見えるが、それもない。レイフも裸眼であたりを伺っているようだ。「ウ…
ウィルフレッドの所属する陸軍の全日射撃訓練は初秋に行われる。防弾チョッキやヘルメット、夜間の射撃に備えてナイトビジョンスコープを取り付けたM16やFN FALライフルなど実際の装備と地図を持たされ、バディと共に林間に放り出される演習訓練である。弾は…
――――「本日このような合同訓練の機会を与えて下さったレイフ・ベックフォード隊長に感謝して、挨拶の締めとさせて頂こう」 陸軍中部支部長の挨拶が終わり、合同訓練の時間が近づくにつれて一層訓練生たちの熱気が上がっていく。ウィルはそれを肌で感じて、自…
「お前もう寝る?」「うん、眠いし。まだ勉強すんの?」「どうしようかと思って」「いいよ、オレ明るくても寝れるから。あーでも上で寝るからあんま関係ないか」 ピアーズはそういって背伸びをした。2時間に渡るゲームで萎縮した筋肉を伸ばしている。 「…い…
「なあクレイグ!回復持ってる?」「はいよ」 画面の中で、クレイグの使用キャラがピアーズの使用キャラに回復アイテムを使う。 「助かった。サンキュ。敵強いな」「向こうの衛生兵がまた厄介だな」「うん」「あとお前もう少し物陰に隠れたほうがいい、正面…
―――「お前今週も土日来るだろ?」そう声をかけられたのは、ジムの隣あったランニングマシーン上を走っていた時だった。いつもピアーズは耳にイヤホンをつけて走るから、トントンと肩を叩かれイヤホンを外した途端のことだ。 「ああ、別に他の予定もないし」…
クレイグの細い指がダートをつまむ。そして鋭い眼差しで的を射た。 「ナイス」「サンキュ」「相変わらず何やらせても器用だねえ」 クレイグの友人の一人であるサイモンは、医学部で、いつもクレイグと授業を受けているらしい。クレイグが放ったダートの刺さ…
「クレイグ?どうしたの、気分でも悪い?」 シェリルがクレイグの額にそっと触れた。クレイグがゆっくりと瞼を開く。今日は二人でクレイグの家で勉強することになっていた。朝、確認の電話をしたとき少しバツが悪そうな様子だったのはこのせいだったのだろう…
―――ピアーズが遅くなったあの日。クレイグは講義中にあったピアーズからの不在着信になんとなく嫌な予感がして、ピアーズがいつも通る校門の前で待っていた。勿論家にも行ったが電気はついていなかったし、何より几帳面なピアーズが、クレイグの折り返しに応…
ピアーズは辛うじて歩を進めた。もうすっかり辺りは暗い。思い出したくないのに、教授の顔が、あの狂気に満ちた目が、触れてきた繊細な手指が、思い出されて仕方なかった。涙がぼとぼとと地に落ちる。 「ピアーズ!」 聞き覚えのある愛しい声にピアーズがは…
"もしもしピアーズ?今日、行く?"「行くよ。四時限目終わったら行く」 三時限と四時限の間に、クレイグからかかってきた電話を取った。今夜は一緒にジムに行くのを予定していたから、それの話だろう。 "なら先行ってて。俺四限目終わってから教授の手伝いし…
ーーー 一度だけ過去に、クレイグと肌を重ねたことがあった。あれは高校の時、同じくこの部屋でだった。あの日もこんな風に、積もらない雪が降っていたのを覚えている。 ”なぁピアーズ、いまから俺んち来れないか?” 突然かかってきた電話に、ピアーズはひと…
「それで?俺を引き止めた理由って?」「…前も言っただろ?察してくれよ」「ま、そうだよな」 クレイグは持ってきたコーヒーのマグをコンラッドに手渡して自分ももう一つのマグに口をつけた。 「で?その不毛な恋がなんだって?」「…お前に、あいつに代わっ…
「おー!会いたかったぜー!」「おつかれさん」「Hey!ピアーズ!久しぶりだな!」 待ち合わせの体育館にやってきたのはピアーズとクレイグのクラスメイトであるエルバート、コンラッド、ユージンだ。エルバートはいつも明るくムードメーカー。コンラッドは…
春は夜明け。夏は夜。秋は夕暮れ。冬は早朝。日本の昔の詩人がそんな風に”一日の最もいい時間”を表現していると教えてくれたのはクレイグだった。だが、夕暮れが美しいのは、秋だけではないとピアーズは思う。 ピアーズはマフラーに顔を埋めて空を見上げた。…
部屋には少し気だるげな空気が漂っていた。シリルは腰にタオルを巻いただけの状態でベランダに出て涼んでいる。ダグラスのマンションからは一級河川が見え、その奥にはニューヨークの街並みも見下ろせるからシリルはお気に入りだった。 夜風が汗ばんだ肌を撫…
発表の後、最初は妬みから陰口を言う者もあったが毎日のようにレイフがウィルの部屋にやってきて自主練に誘ったり色んな話をしに来るのでそれもそのうち減っていった。「ウィル、今日もこのあと個人訓練?」「ああ」「お前はこの合同訓練が終わったら今より…
「クライヴ、すいません。手加減してあげられそうにない」「ああ」むしろそれでいいと言わんばかりの瞳でクライヴがエヴァンの瞳を見つめてくる。エヴァンはその視線を受け止めると少し荒っぽく、クライヴをベッドに座らせた。そのままベッドに手をついてク…
ボクのご主人は2人います。ひとりはエヴァンさん!幼いころに死にそうになっていたボクを拾ってくれた命の恩人です。そしてもうひとりはエヴァンさんの恋人のクライヴさんです。2人はとっても仲良しで、いつも隣同士にいます。 エヴァンさんはクライヴさんが…