2015-02-01から1ヶ月間の記事一覧
久々の二人での夕食に心が沸き立つのを感じる。最近は仕事が忙しく、悠々と食事を取ることすらままなかなかった。 包丁の切れ味はいい。丁寧に皮を剥かれた野菜を一口大の大きさに切り分け、鍋に放り込んだ。 不器用な上司は、よく料理なんてできるな、と苦…
――――「本日このような合同訓練の機会を与えて下さったレイフ・ベックフォード隊長に感謝して、挨拶の締めとさせて頂こう」 陸軍中部支部長の挨拶が終わり、合同訓練の時間が近づくにつれて一層訓練生たちの熱気が上がっていく。ウィルはそれを肌で感じて、自…
ウィルフレッドの所属する陸軍の全日射撃訓練は初秋に行われる。防弾チョッキやヘルメット、夜間の射撃に備えてナイトビジョンスコープを取り付けたM16やFN FALライフルなど実際の装備と地図を持たされ、バディと共に林間に放り出される演習訓練である。弾は…
「お前もう寝る?」「うん、眠いし。まだ勉強すんの?」「どうしようかと思って」「いいよ、オレ明るくても寝れるから。あーでも上で寝るからあんま関係ないか」 ピアーズはそういって背伸びをした。2時間に渡るゲームで萎縮した筋肉を伸ばしている。 「…い…
「なあクレイグ!回復持ってる?」「はいよ」 画面の中で、クレイグの使用キャラがピアーズの使用キャラに回復アイテムを使う。 「助かった。サンキュ。敵強いな」「向こうの衛生兵がまた厄介だな」「うん」「あとお前もう少し物陰に隠れたほうがいい、正面…
―――「お前今週も土日来るだろ?」そう声をかけられたのは、ジムの隣あったランニングマシーン上を走っていた時だった。いつもピアーズは耳にイヤホンをつけて走るから、トントンと肩を叩かれイヤホンを外した途端のことだ。 「ああ、別に他の予定もないし」…
クレイグの細い指がダートをつまむ。そして鋭い眼差しで的を射た。 「ナイス」「サンキュ」「相変わらず何やらせても器用だねえ」 クレイグの友人の一人であるサイモンは、医学部で、いつもクレイグと授業を受けているらしい。クレイグが放ったダートの刺さ…
「クレイグ?どうしたの、気分でも悪い?」 シェリルがクレイグの額にそっと触れた。クレイグがゆっくりと瞼を開く。今日は二人でクレイグの家で勉強することになっていた。朝、確認の電話をしたとき少しバツが悪そうな様子だったのはこのせいだったのだろう…
―――ピアーズが遅くなったあの日。クレイグは講義中にあったピアーズからの不在着信になんとなく嫌な予感がして、ピアーズがいつも通る校門の前で待っていた。勿論家にも行ったが電気はついていなかったし、何より几帳面なピアーズが、クレイグの折り返しに応…
ピアーズは辛うじて歩を進めた。もうすっかり辺りは暗い。思い出したくないのに、教授の顔が、あの狂気に満ちた目が、触れてきた繊細な手指が、思い出されて仕方なかった。涙がぼとぼとと地に落ちる。 「ピアーズ!」 聞き覚えのある愛しい声にピアーズがは…
"もしもしピアーズ?今日、行く?"「行くよ。四時限目終わったら行く」 三時限と四時限の間に、クレイグからかかってきた電話を取った。今夜は一緒にジムに行くのを予定していたから、それの話だろう。 "なら先行ってて。俺四限目終わってから教授の手伝いし…
ーーー 一度だけ過去に、クレイグと肌を重ねたことがあった。あれは高校の時、同じくこの部屋でだった。あの日もこんな風に、積もらない雪が降っていたのを覚えている。 ”なぁピアーズ、いまから俺んち来れないか?” 突然かかってきた電話に、ピアーズはひと…
「それで?俺を引き止めた理由って?」「…前も言っただろ?察してくれよ」「ま、そうだよな」 クレイグは持ってきたコーヒーのマグをコンラッドに手渡して自分ももう一つのマグに口をつけた。 「で?その不毛な恋がなんだって?」「…お前に、あいつに代わっ…
「おー!会いたかったぜー!」「おつかれさん」「Hey!ピアーズ!久しぶりだな!」 待ち合わせの体育館にやってきたのはピアーズとクレイグのクラスメイトであるエルバート、コンラッド、ユージンだ。エルバートはいつも明るくムードメーカー。コンラッドは…
春は夜明け。夏は夜。秋は夕暮れ。冬は早朝。日本の昔の詩人がそんな風に”一日の最もいい時間”を表現していると教えてくれたのはクレイグだった。だが、夕暮れが美しいのは、秋だけではないとピアーズは思う。 ピアーズはマフラーに顔を埋めて空を見上げた。…
久しぶりの休日なのに、コリンは早々にどこかへ出掛けてしまった。今日は晴れているし、気温もそこまで高くない。出掛けるにはちょうどいいだろう。フレッドも外へ出ることにした。歯を磨いて顔を洗う。コリンと兼用で使う洗顔料はミントの香りがして気持ち…
思い通りに行かない恋愛がこんなに辛いものだとは思わなかった。自分にとって恋愛は人生に不可欠な要素ではなかったし、ましてそれ中心に生きてきたわけではない。喩えるならば、テレビゲームのような時間潰し、娯楽だった。だからうまくいかないならやめれ…
部屋には少し気だるげな空気が漂っていた。シリルは腰にタオルを巻いただけの状態でベランダに出て涼んでいる。ダグラスのマンションからは一級河川が見え、その奥にはニューヨークの街並みも見下ろせるからシリルはお気に入りだった。 夜風が汗ばんだ肌を撫…
発表の後、最初は妬みから陰口を言う者もあったが毎日のようにレイフがウィルの部屋にやってきて自主練に誘ったり色んな話をしに来るのでそれもそのうち減っていった。「ウィル、今日もこのあと個人訓練?」「ああ」「お前はこの合同訓練が終わったら今より…
―――クライヴはすごい雨の音で目が覚めた。カーテンを開けて外を見る。窓の外は真っ暗で、朝6時とは思えない。窓を叩く横殴りの雨が激しい音を立てている。 昨日からこの地域に低気圧が流れ込み豪雨になると昨夜のニュースで言っていた。乱暴な雨のアラームの…
「クライヴ、すいません。手加減してあげられそうにない」「ああ」むしろそれでいいと言わんばかりの瞳でクライヴがエヴァンの瞳を見つめてくる。エヴァンはその視線を受け止めると少し荒っぽく、クライヴをベッドに座らせた。そのままベッドに手をついてク…
ボクのご主人は2人います。ひとりはエヴァンさん!幼いころに死にそうになっていたボクを拾ってくれた命の恩人です。そしてもうひとりはエヴァンさんの恋人のクライヴさんです。2人はとっても仲良しで、いつも隣同士にいます。 エヴァンさんはクライヴさんが…